ロシア制裁によるブーメラン
食糧の増産には化学肥料が不可欠です。非常に人口の多い中国とインドですが、インドは人口が2.5倍に増加した期間に、穀物生産量は3.1倍になりました。しかし、その間に穀物作付面積は1.7%増にすぎません。莫大に増えたのは化学肥料使用量で20.9倍とすさまじいものがあります。化学肥料の投入で食糧の増産が支えられています。
植物の生育に必要な肥料は窒素、リン酸、カリですが、ロシアは窒素で世界輸出第1位の15・5%を占め、カリは18.7%で第2位、リンは13.7%で第3位と化学肥料で圧倒的な存在です。同盟国のベラルーシもカリで18.2%を占める第3位の輸出国となっています。いまロシアの制裁でこの化学肥料が入らなくなってきています。[JAcom農業協同組合新聞:食料危機の新たなステージ]
次は、NHKの「NEWS WEB」ではアメリカの穀倉地帯へ取材に行っています。訪ねたのは家族で農業を営むニコル・バーグさん
バーグさんは、畑のすぐそばに並ぶ巨大なタンクに案内しました。
保管されているのは、小麦を育てるのに欠かせない液体状の肥料です。この肥料、実は多くがロシア産です。厳しい経済制裁が始まってから、アメリカでは手に入りにくくなり、価格が上がっています。とのことでした。
さらに窒素肥料を作るときの主要原料となる硝酸アンモニウムもロシアは輸出を停止しています。ロシア産の硝酸アンモニウムは世界市場での流通量の45%を占めています。日本貿易振興機構(ジェトロ)
ロシア制裁のブーメランは農業用燃料にも
トラクターや耕運機を動かすのはディーゼルエンジンです。ニコル・バーグさんはNHKの取材に「燃料費は3倍になっている」と話しています。燃料の軽油の他に尿素が必要です。ロシア産の硝酸アンモニウムは世界市場の流通量の45%を占めています。
米国全土の食品施設を襲う火災のパターンは、放火犯チームが米国の食品生産インフラを焼き尽くしていることを示唆している(NATURAL NEWS)
2022年4月22日の記事ですが、その後も続いていることでしょう。記事によると●ユニオン・パシフィック鉄道が穀物の輸送をキャンセル、肥料の配送を部分的に停止●鳥インフルエンザの流行を理由に鶏の大量処分。卵の値段が高騰●政府が食糧を作らない農家に補助金を支給●バイデン大統領がアメリカのエネルギーインフラ(パイプライン、掘削など)を解体したことが、農業に直接影響を与え、燃料や肥料などの農業投入物の価格を大幅に上昇
2021年10月-2022年4月までのアメリカの食品関連施設での火災等
– ドライミルク工場 – アイダホ州火災 10月-21年
– 食品加工工場火災 テキサス州サンアントニオ 12月-21年
– JBS 牛肉工場火災12月-21年
– ミシシッピ家禽飼料工場ボイラー爆発 12月-21年
– ニューヨーク州ハミルトンマウンテン家禽加工工場火災 1月-22年
– ルイジアナ州ルコンテ飼料工場の火災1月-22年
– テキサス州エルパソのボナンザ食肉会社の火災2月-22年
– オレゴン州シアラーズ フード プラントの火災、2月-22年
– モーストン ウィスコンシン州リバー ミートの火災 2月-22年
– アリゾナ州マリコパ郡のフード バンク、食品パントリー火災 3月–22年
– ネスレはアーカンソー州で火災3月–22年
– ウォルマートの流通センター火災 3月–22年
– メイン州ペノブスコットのジャガイモ加工工場 3月–22年
– カナダ、シャーブルック 食品加工火災4月-22年
– カンザス州穀物エレベーター工場の火災4月-22年
– 肥料工場の火災 4月-22年
– アズレ スタンダードで火災4月-22年
– カリフォルニア州サリナス食品加工工場の火災4月-22年
以上のようにアメリカでは大勢の流れが食糧供給に支障をきたす方向に向かっています。
異常気象による大雨や旱魃による食糧不足の時代が始まっている
国立環境研究所らの研究チームの2022年6月28日発表のプレスリリースによると「世界複数の地域で過去最大を超える干ばつが常態化する」とのことです。研究チームは過去最大を超える干ばつが何年も継続して起こるようになる時期を、2099年まで数値モデルを用いて、世界で初めて推定しています。
- 干ばつ、世界で相次ぐ 農業への打撃が食糧供給リスクに[日本経済新聞 2021年9月21日]
- 米国農務省:現在、米国の冬小麦の総生産量の 69% が干ばつ地帯にある…収量の急激な低下が間近に迫っている[NATURAL NEWS 2022年4月23日]
- 未曽有の干ばつ、米最大の農業拠点の悲鳴 収穫減、輸出に影響も[西日本新聞2022年1月17日]
- 欧州の約6割で干ばつの危険、過去500年で最悪の状態=EU調査[BBC NEWS 2022年8月24日]
- フランスで厳しい干ばつ、飲み水が不足する町も[BBC NEWS 2022年8月6日]
フランスは小麦の輸出で世界第4位、トウモロコシの輸出では世界第5位です。
- インドは小麦粉と穀物の輸出の制限へ[SPUTNIK 2022年7月8日]
インドは世界のコメ輸出国です。コメの輸出制限も時間の問題でしょう。
- 豪で干ばつ拡大、約50年ぶり少雨 穀物不作で輸出減[日本経済新聞2019年10月8日]
- 東南アジアや豪州で干ばつが長期化へ 気候変動の影響[SciencePortal 2022年5月16日]
中国は世界の穀物の買いだめを加速させている
日本は小麦の約9割を外国から輸入しています。アメリカ(46%)、カナダ(33%)、オーストラリア(15%)で、この3カ国でほとんどを占めています。世界で旱魃の影響が少ないカナダが頼みの綱ですが、中国はすでに将来の食糧危機の備えて猛烈な勢いで買い占めをしています。世界の在庫量に占める中国の割合はトウモロコシが69%、コメは60%、小麦は51%に達する見通しと日本経済新聞が伝えています。[JBpress 2022年8月25日]
日本のコメも買い占めの対象になっているそうです。[Business Journal 2020年8月12日]
半年後には日本でも食糧危機が顕在化してくることでしょう。中国を見習って個々人で、早めの食料在庫の確保をお勧めします。気象研究者が予測しているように今後数年間は続くはずです。