T細胞を作るにはビタミンDが必要
Nature immunologyにビタミンD濃度が低い患者のT細胞が、健康な人のT細胞に比べて感染への対処能力が低い理由は、ビタミンDの欠乏で説明できるとあります。
さらにビタミンDは過剰な免疫反応を抑制する働きをするT細胞にも関係しサイトカインを抑制します。
上の図のTh1・Th2・Th17はそれぞれサイトカインの種類です。新型コロナウイルス感染症の特徴でもあるサイトカインストームによる重症化を抑制するのもT細胞の働きです。
ビタミンDが新型コロナウイルス感染症の死亡リスクを抑制
PubMedのWilliam B Grant 等による 研究結果によると、ビタミンDはインフルエンザとCOVID-19の感染と死亡のリスクを減らすことができるというエビデンスがあるとのことです。ビタミンD欠乏症は呼吸窮迫症候群の一因となることが分かっています。そして、その致死率は、年齢と慢性疾患の合併症とともに増加し、どちらも25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)濃度の低下に関連しています。
Paul Lips らの研究によるとは最近、約40か国(日本は入っていません)の人口のビタミンDの平均レベルを評価し、特に介護施設の居住者(主に高齢者)の間で50%を超える欠乏を示しました。COVID-19の感染か急拡大しているインドのかなりの人口(約> 70%)がビタミンD欠乏症(<20 ng / ml)であることは注目に値します。インド人は紫外線を多く浴びているにもかかわらず、ビタミンDが不足しているのは食品と関係していると思います。インド料理には和食と違って、ビタミンD を含む食品が少ないからではと考えられます。日本人も最近は肉を多食するようになり魚をあまり食べなくなりました。また出汁も干し椎茸で取ることが少なくなっているような気がします。私の子供の頃は出汁と言えば椎茸、昆布、煮干しでした。この保健指導シートにある食品群を意識して食べることが新型コロナウイルス感染症の予防につながります。
欧州では、人口の約40%がビタミンD欠乏症(<20ng / mlの)、米国市民の約24%とカナダ人の約37%はビタミンDが不足しています。
下の表は米国科学アカデミー医学研究所の食品栄養委員会(FNB)が設定したビタミンDの推奨栄養所要量です。男性では1歳から70歳までは600IU、71歳以上は800IUが必要です。女性では1歳から18歳までは600IUですが19歳から50歳までは699IUで51歳以降は男性と同じ量になります。
ほとんどの日本人はビタミンD摂取量が不足
推奨栄養所要量(RDA)は1日に必要とするビタミンDの量ですが、皮膚に日光の紫外線を浴びることによっても産生されます。その分を差し引いた食事摂取の目安量が策定されています。
日本人の食事摂取基準2020年版では成人の目安量を8.5μgとしています。次のグラフのように全ての年代で目安量の8.5μgに達していません。70代以上の男性では20μg以上摂取している反面、40代以下の摂取量が少なく、特に女性が極端に少なくなっています。
摂取量は平成25年国民健康・栄養調査報告の栄養等摂取量(年齢階級別)の値を用いています。これは昭和40年以降に生まれた世代が、魚を食べなくなったことによると思われます。ファミレスに行っても焼き魚や煮魚があまりありません。私の若い頃は定食屋がどこにでもあって、よく煮魚や焼き魚を食べていました。肉は牛と豚と鶏の3種類ですが、魚は種類ごとに異なった味で何種類も楽しむことができます。今では40代以下の男女ともに生魚介類の摂取量がほぼゼロに近くなっています。
生魚介類には、刺身や寿司以外に生で購入して家庭や飲食店で調理する場合も含まれています。次は天日干し、煮干し、みりん干しなどや、燻製、塩辛といった魚介加工食品の摂取量ですが、これも40代以下の男女は非常に少ない摂取量となっています。
男女ともに1日80gから140gと摂取量の多い人々も存在しているのですが、多くは10g以下と僅かしか食べていません。1日当たりのビタミンD目安量を満たすには男性では現状の2倍以上、女性では3倍以上の魚介類を食べる必要があります。またはビタミンDサプリメントの摂取が欠かせません。肉食の欧米では食品でビタミンD摂取量を満たすことは困難なため、オレンジジュースや牛乳、ヨーグルトなどにビタミンDを添加することが法律で義務付けられています。
ビタミンD摂取量が十分でもT細胞は作られない
高校の生物で習ったリービッヒの最小律があります。これは、たった1つの要素が欠乏していると他がいくら多くても植物は成長できないということでした。高齢者では「ドべネックの桶」の側板の1枚にあたる微量元素である亜鉛が欠乏しています。
つづく